神戸地方裁判所 昭和41年(行ク)1号 決定 1966年2月10日
申立人 兵庫県地方労働委員会
被申立人 大和製衡株式会社
主文
被申立人は、申立人が被申立人に対してなした兵庫県地労委昭和四〇年(不)第五号、第六号不当労働行為併合事件の命令に従い、当裁判所昭和四〇年(行ウ)第四四号命令取消事件の判決確定に至るまで、日本労働組合総評議会全国金属労働組合兵庫地方本部大和製衡支部の組合員板倉弘和、同砂川良夫、同伊東祐則、同末重龍治、同横山昭、同岩佐吉一および同浜崎義一が右大和製衡支部組合の組合大会および青年婦人部大会に出席するため被申立人会社構内に入場することを禁止してはならない。
(裁判官 森本正 菊地博 保沢末良)
〔参考資料〕
命令書
(兵庫県地労委昭和四〇年(不)第五号・昭和四〇年(不)第六号 昭和四〇年一一月二四日 命令)
申立人 日本労働組合総評議会全国金属労働組合兵庫地方本部大和製衡支部
被申立人 大和製衡株式会社
主文
一 被申立人は、申立人の組合員板倉弘和、同砂川良夫、同伊東祐則、同末重龍治、同横山昭、同岩佐吉一及び同浜崎義一が申立人の組合大会及び青年婦人部大会に出席するため被申立人の会社構内に入場することを禁止してはならない。
二 申立人その余の申立ては、これを棄却する。
理由
第一当事者の主張の要旨
一 申立人の主張 申立人組合は、次のとおり主張する。被申立人会社は、申立人の組合員板倉弘和、同砂川良夫、同伊東祐則、同末重龍治、同横山昭、同岩佐吉一及び同浜崎義一に対し、解雇したことを理由として会社構内への入場を阻止している。組合員が解雇された場合でも、その組合員は組合用務のためには会社構内へ入場することはできる。組合活動は解雇の有効・無効の問題とは別のことである。被申立人会社が申立人組合の組合活動の中核者である板倉ら七名の者の入場を阻止し構内での組合活動を妨害することは、申立人組合の組合運営に支配介入する行為であり、不当労働行為である。
二 被申立人の主張 被申立人会社は次のとおり主張する。被申立人会社が板倉ら七名の者に対し会社構内への立入を拒否した理由は、同人らは会社より職場における集団暴力行為のため解雇され、従業員たる身分を喪失しているからである。申立人組合の組合員たる資格は被申立人会社の従業員たる身分を有することを前提条件としているのであるから、会社の就業規則に基づき従業員たる身分を失つた七名の者は少なくとも被申立人に対する関係においては組合員たる資格を主張しその行動をすることはできない。以上は基本的理由とするところであるが、具体的事由としては職場秩序の防衛に基づくものである。従つて、本件はその解雇の理由があるかどうか、その解雇が有効か無効かについて審査されるべきであり、この根本問題が解決すれば他も解決するのであり、要求の対立ではなく事実の対立である。本申立棄却の判定を求める。
第二認定した事実及び判断
一 申立人組合(以下「組合」という。)は、昭和二一年に会社の労務員をもつて結成した組合である。昭和四〇年三月一日総評全国金属に加盟した。この全国金属加盟に際して二月一四日組合の一部が分裂した。組合は大和製衡明石工場労働組合と称していたが、昭和四〇年九月一二日日本労働組合総評議会全国金属労働組合兵庫地方本部大和製衡支部とその名称を変更した。現在、組合員約八三〇名を有する労組である。被申立人会社(以下「会社」という。)は、各種のはかり、計量器の製造販売を業とする株式会社であり、現在、従業員約一、六二八名を雇用している。
二 組合と会社の関係は、賃上げ、その他労働条件の改善、労働協約の改訂及び鈑金工場所属の組合員四三名の職場離席にかかる懲戒処分反対等の組合要求により、昭和四〇年三月三〇日より争議状態に入つた。争議は労使の話し合いにより同年六月二五日解決し、組合員は翌二六日から就労した。その後、会社は、同年七月五日従業員板倉弘和(組合の執行委員・青婦対策委員長)に対し、同月九日従業員砂川良夫(組合の闘争委員・職場委員長)、同伊東祐則(組合の拡大闘争委員・職場委員)、同末重龍治(組合の職場委員・福利厚生常任委員)の三名に対し、同月二八日従業員横山昭(組合の執行委員)、同岩佐吉一(組合の闘争委員・職場委員長)、同浜崎義一(組合の青年婦人部幹事)の三名に対し、就業規則第七三条により、それぞれ懲戒解雇の処分を行なつた。組合は、この会社の処分について、「会社は上記七名に暴力行為があつたとして、これを解雇理由にしているが、真の理由は同人らの活発な組合活動に基因するものである。」と主張し、不当労働行為として救済を申立てている(昭和四〇年八月九日申立兵庫県地労委(不)第五号事件及び昭和四〇年九月一一日申立兵庫県地労委(不)第六号事件)。以上のことは当委員会に顕著な事実である。
三 会社が、板倉ら七名の被解雇者に対して、それぞれ解雇処分の日以降、同人らが組合活動のために会社構内(組合事務所を除く。)に入場することを一切阻止していることは、当事者間に争いのない事実である。七月六日板倉が組合情報を組合員に配布していると、会社は、懲戒解雇を理由として入門を拒否した。会社は、七月一〇日及び一三日終業後会社構内で開かれた組合臨時大会に板倉ら被解雇者四名が出席するため入門することを拒否した。会社は九月二四日会社構内で開かれた青年婦人部大会に出席のため被解雇者が入門することを拒否した。また、会社は作業時間外に組合活動としてビラ等を持参するため、被解雇者が入門することを拒否した。さらに、会社は一〇月二三日年末一時金についての臨時組合大会に出席するため、被解雇者らが入門することを拒否した。
四 以上のことは、当事者間において争いのない事実である。よつて、会社が被解雇組合員の構内入場を禁止している理由について判断する。
いわゆる企業別ないし企業内組合として成長してきたわが国の労働組合の状況をみるに、その組合活動の重心は企業内におかれ、その日常活動の大半は事業所内で経営管理秩序との調和のもとに行なわれている。即ち、日本的特殊事情として、使用者は、その企業の経営管理上の秩序維持を害しない範囲で、その従業員の事業所内における組合活動を認めなければならないという労働慣行が一般に承認されているものといいうる。
本件当事者において、組合はその組合活動を会社の構内で行ない、組合大会その他組合の制度的会議または会合を会社四階ホールや構内広場などの一定の場所で開催し、また休憩時間その他就業時間外に各職場において随時自由に職場集会を開き、現在に至つていることは、申立人側申請証人大仁衛、同円山浩、同板倉弘和の陳述により認められるところである。
本件被解雇者板倉ら七名の会社構内入場阻止について、組合は、「労働組合は会社構内において、休憩時間その他就業時間外においては自由に組合活動を行なうことができる。会社が板倉ら七名の入場を阻止するのは、組合活動を妨害し組合の運営に対する支配介入をなすものである。」と主張し、会社は「暴力行為を行ない、就業規則により解雇せられた者であるから、少くとも会社に対する関係においては、組合員たる資格を主張し、その行動をとることはできない。また、会社は職場秩序防衛のためにも会社構内へ入場させることはできない。」と主張する。これを按ずるに、およそ解雇によつて企業の従業員たる身分を失つた者であつても、当然に組合員資格を失うことなく、組合員資格の有無は、労組法の制限の枠内において、専ら当該組合の自主的規範によつて定まり、組合員資格の認められる限り、その所属組合の組合活動に参与する権利を有することは、労働組合法の明らかに認めるところである。申立人組合が従来の慣行により所定の手続を経て会社の構内で開催した組合大会や青年婦人部大会など組合規約に定める制度的会合に、板倉ら七名の被解雇者が組合員としてまた役員として出席するため入場することを会社が阻止したことは行き過ぎの措置であり、施設管理権を濫用せるものといわなければならない。会社は職場秩序維持のためにも入門を認めることはできないと主張するが、板倉ら七名の者は、会社側のいわゆる暴力行為以後解雇に至るまで会社構内において就業していたが、何等職場秩序を乱した事実はなく、同人らの構内立入が職場秩序を乱す客観的な虞は存しない。会社側の抱く単なる主観的な虞は、これらの者の構内立入を禁止する根拠とはなしえない。また、職場秩序を維持するためには、他の手段・方法があり、入場禁止の必要性は認められない。
次に申立人組合は、「板倉ら七名が、職場集会に出席するため、また組合用務の連絡のため入場することを会社が禁止するのは不当である」と主張する。職場集会あるいは組合用務連絡は、休憩時間その他就業時間外に行なわれるものであつても、組合が随時自由にこれを行なうものであるので、申立人組合の組合活動が職場活動を根幹としていることを認めるとしても、また板倉ら七名が解雇処分を争つており、組合の中核者であるとしても、会社が解雇した者に対し組合活動のため構内へ随時自由に入場することを許可するためには、その管理秩序維持のため煩雑な処置を必要とし、この点について会社に受忍を強いることは酷であると思料するので、組合のこの点の主張は認めることはできない。
第三法律上の根拠
以上の事実認定及び判断により、会社がその構内で開かれた組合の大会や青年婦人部大会に板倉ら七名の被解雇者が出席するため入場することを阻止したことは、組合活動を妨害するものであり、労働組合法第七条第三号に該当する支配介入として不当労働行為を構成するものと判断する。なお、会社は解雇の理由の当・不当が根本問題であると主張しているが、組合の申立てにより審査を先行した本件は会社主張の問題とは別個にその当否を判断しうるものと認め、当事者間の労使関係正常化のため且つ申立人組合の特殊事情と年末闘争を迎えた現段階においては、この部分について救済命令を発すべき緊急の必要ありと判断し、主文第一項のとおり命令する。
組合は、請求する救済内容として「被申立人の謝罪文の交付」を併せて申立てているが、本件の場合主文の命令によつて救済の実を果し得るものと認めるので、申立人のその余の請求はこれを棄却する。
よつて、当委員会は労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条を適用して主文の通り命令する。